
島の風に吹かれながら「気づく力」と「手のひら」の感性を育てていく、
新人セラピスト・宙の小さな成長物語。『そらいろスパ日和 〜宙のてのひら物語〜』がWEB上でスタート。忙しい毎日で少しだけ疲れた時に、そっと覗きにきてください。心も体も優しくほどけるような、そらいろの便りをお届けします。
Stoly01 : 空色〜風がつれてきた子
潮の香りをふくんだ春の風が、島の高台に立つ小さなスパにやさしく吹き抜けた。 その風の中で、ひとりの女の子がスーツケースの上に腰を下ろし、空を見上げていた。 「…ここが、私の新しいスタートか。」 朝美 宙(あさみ そら)、22歳。 セラピストとしての夢を追いかけて、本土からこの島にやってきた。
風が肌をなでる感触が、どこか懐かしくて心地いい。 「エアリーリーフ…ほんとに、ここに来られたんだ。」 スパの扉を開けた瞬間、ほのかに甘くて爽やかなアロマの香りがふわりと鼻をくすぐった。 白を基調とした明るい空間に、木のぬくもりとグリーンが溶け込むように配置されている。 窓からは海が見えて、波の音が小さく響いていた。
「こんにちは。今日からお世話になります、朝美 宙です。」 少し緊張した声でそう挨拶すると、奥の方からふわっとした雰囲気の女性が現れた。 肌はこんがり、髪はゆるくまとめられていて、ラフなTシャツにエプロン姿。 その人は先輩セラピストの光(ひかり)さんだった。 「お〜、宙ちゃんね〜。ようこそ。わたしは、光!よろしくね!」 そう言って光さんはにっこり笑った。
島の訛りはやわらかくて、なんだか心の緊張がふっと解けるようだった。 「ここはね、技術だけじゃ足りないの。手から伝わる気持ちが、一番大事なんだよ。 お客さんは、タッチの中に“ぬくもり”探してるの」 「…“手から伝える気持ち”…」 宙はその言葉を胸の奥に大事にしまった。
まだ自信はないけれど、誰かの心をそっと包めるような手になりたい。 そんな想いが、小さな種みたいに芽を出した。 その日の夕方、宙は空いている施術ルームにひとり入り、ベッドに敷かれたタオルのシワを整えた。 まだ誰も寝ていないその場所に、手のひらをそっと添えて、小さく深呼吸をする。 「…この手で、誰かの心が、少しでも軽くなりますように。」 窓から吹き込む風が、まるで「うん」と答えてくれたような気がした。 ⸻
つづく。 ⸻