島の風に吹かれながら「気づく力」と「手のひら」の感性を育てていく、
新人セラピスト・宙の小さな成長物語。『そらいろスパ日和 〜宙のてのひら物語〜』がWEB上でスタート。忙しい毎日で少しだけ疲れた時に、そっと覗きにきてください。心も体も優しくほどけるような、そらいろの便りをお届けします。
Story03:空色~やさしさを編む朝
朝の海は、夜の静けさを引き継ぐように穏やかで、 窓から差し込む光も、まだ少し眠たげだった。 宙は、昨日の夜に書き込んだノートを胸に抱えながら、いつもより少し早くスパにやってきた。
「おはようございます!」 スタッフルームに入ると、コーヒーを淹れていた光さんが笑顔で振り返った。
「お〜、宙ちゃん早いね。 いいことあった?」 「うん、ちょっと聞いてもらいたくて…!」 宙はノートをテーブルに広げた。 「昨日の施術のあと、考えてみたんです。 “仰向けと横向きだけで受けられるコース”を、ちゃんとメニューにしたいって。」 光さんが興味津々で近づいてくる。 「名前とか、内容とか、いろいろメモしてみました!」 ⸻ ノートには、宙の手書きのタイトルが書かれていた。
“あおむけアロマリラクゼーション” 我慢しない、うつ伏せしない。やさしさのまどろみへ。 ⸻ 「…すごく、素直でいい名前じゃない?」 光さんがノートを見ながら、にっこり微笑んだ。 「オシャレすぎず、でもちゃんと伝わる。 “あ、私のことかも”って思ってもらえる人、きっと多いと思う。」 「そう思って…あえてカタカナとか横文字じゃなくて、 シンプルに“あおむけ”って、ひらがなにしました。」 「いいねえ〜、“リラクゼーション”の響きがまたやさしい。」
2人でベッドの配置、タオルの掛け方、施術の流れを確認しながら、 「ここはオイルの香りを選べるようにしようか」とか、 「横向きに入るタイミング、どうする?」なんて細かいところまで話し合った。 まるで、てのひらで物語を編んでいくようなミーティングだった。 ⸻ 「ところで、この“そらにろコース”って書いてあるのは…?」 光さんがページのすみに書かれた名前を指差した。
「あ、それは…私の名前にちなんでつけてみたんですけど、 なんかちょっと照れくさくて…」 「いいじゃない、宙ちゃんがこの施術を形にしたんだもん。 メニュー表には、“あおむけアロマリラクゼーション(空色コース)”って入れてもいいかもね。」 宙はふわっと笑った。 (やさしさって、手の中だけじゃなくて、名前や言葉にも宿るんだ。)
⸻ こうして、 新しいメニューは、まだ海が静かな春の朝に、そっと生まれた。 ⸻ つづく。 ⸻