島の風に吹かれながら「気づく力」と「手のひら」の感性を育てていく、
新人セラピスト・宙の小さな成長物語。『そらいろスパ日和 〜宙のてのひら物語〜』がWEB上でスタート。忙しい毎日で少しだけ疲れた時に、そっと覗きにきてください。心も体も優しくほどけるような、そらいろの便りをお届けします。
そらいろスパ日和 Story18「虹色の午後」
ある秋の雨の降る日。
宙は島の小さな小学校にいた。 依頼されたのは「香りと自然」をテーマにした特別授業。
教室に集まったのは、小学2年生の子どもたち。 くりくりした目が好奇心でキラキラしている。
宙は少しだけ緊張しながら、でもいつもの優しい声で話しかけた。
「ねえ、みんなにクイズだよ。 もしね、この世界から香りが“ぜーんぶ”消えちゃったら…どうなると思う?」
(子どもたち、ざわざわ)
宙「うふふ、たとえばね…八百屋さんがなくなるかもしれないの!」
子供「え!?なんで~!?!?」
宙「だって、花や果物はね、自分の“香り”を使って虫たちに“ここに来て!”って伝えてるの。 それができなくなると??どうなるかな?」
別の子「果物ができない!😭」
宙「そう!ピンポン! それからね…動物たちは、香りで“敵が近い!”とか“好きだよ~”って伝えたりするの。 それができなくなると、ケンカばかりになっちゃってワンちゃんもニャンコもいなくなるかも!」
児童たち 「ええーー?そんなの嫌だー」
「そう。香りって、見えないけど、この地球でとっても大事なんだよ。 そしてみんなの“心”が育つ、大切な感覚のひとつなんだ」 ⸻
🌿 においは自然界の“ことば”
宙は、ミカンの葉からとった精油を瓶ごと取り出した。
「この香りはね、ミカンの木が虫に食べられないように、自分で作ったにおいなんだよ」
「ええ~!?木が!?」 「ミカンって、戦ってるんだ!!」と子供たちは大騒ぎ。
宙は笑ってうなずき、こう続けた。
「動物もね、危ないことを“におい”で知ることができるんだよ。 たとえば、シカは“敵のにおい”がしたら、すぐに逃げるの。 でもそのにおいがなかったら、逃げられないかもしれないよね」
「食べられちゃう……!😨」
「そう。香りは“見えないサイン”なんだよ」
そして今度は花の話。
「花の香りは、ミツバチに“ここに蜜があるよ”って教える合図なの。 もしその香りがなかったら……ミツバチ、迷子になっちゃうかもね」
「たいへん!花が困る!」
「ね。だから香りって、生きものが助けあうための“ことば”でもあるの」 ⸻
🍊 香りの魔法実験
宙はカゴから、綿に精油を染みこませたものをそっと取り出した。
ラベンダー、オレンジ、ペパーミント、ゼラニウム── けれど、香りの名前はまだ秘密。
「じゃあ、目を閉じて、ふんわり香りをかいでみて。 鼻を近づけすぎないようにね。どんな気持ちがするか、教えてくれる?」
• 「うわぁ、お菓子みたい!なめたい~!」🍭
• 「なんか、森の中にいる気がする……」
• 「鼻がスースーする~!歯磨き粉みたいなやつ!」😆 みんなの想像は、ぐんぐんふくらんでいった。
宙は一人ひとりに笑顔を向けながら、語りかけた。
「その感じたこと、すごく素敵。 香りは見えないけど、心の中にちゃんと“絵”や“気持ち”を届けてくれるんだよ」 ⸻
💫 最後の問いかけ
授業の終わりに、宙はもう一つ、問いかけた。
「ねぇ、香りってね。目に見えないけれど、 いつもわたしたちのそばにいて、助けてくれるものなんだ。 みんなにとって、そんな“見えないけど力をくれるもの”ってなにかある?」
子どもたちは、しばし黙って考え、それから次々に声を上げた。
• 「天使!」🪽
• 「お母さんのハグ」🤗
• 「夢!」
• 「にじー!✨」
• 「スパイ!見えないけど守ってくれる!」(←元気な男子🤣)
宙は思わず、目尻をふにゃっとゆるめて微笑んだ。
「そう……香りって、まるで“見えないやさしさ”だね。 空気みたいに、あたりまえにあって。 でも、それがあるだけで、心はあたたかくなる。 見えなくても、わたしたちのそばにいる魔法──だね」 ⸻
🌈 授業のあと 授業の最後は、みんなでアロマスプレー作り。 好きな香りを選んで、好きな名前をつけて。
「ぼくのは“森のヒミツ”!」 「わたしは“おひさまのほっぺ”にする!」
その笑顔を見て、宙は胸がいっぱいになった。
教室を出ると、空にはうっすら虹がかかっていた。 アロマの天使たちが、微笑んでいるみたいに——。
アロマって、やっぱりいい。 宙は、ふわっと微笑んで、そっと空を見上げた。
完
次回 19話もお楽しみに。








