島の風に吹かれながら「気づく力」と「手のひら」の感性を育てていく、
新人セラピスト・宙の小さな成長物語。『そらいろスパ日和 〜宙のてのひら物語〜』がWEB上でスタート。忙しい毎日で少しだけ疲れた時に、そっと覗きにきてください。心も体も優しくほどけるような、そらいろの便りをお届けします。
今回は、「看る」というまなざしについてのお話です。
見えるものだけじゃなく、気づく力。
寄り添うことの原点を、宙がとある体験から知っていきます。
『そらいろスパ日和』Story09
「まなざしのちから 〜月白と薄藤色〜」
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その日は、宙にとって小さな冒険の日だった。
少し遠くの街で気になっていたホテルに泊まるため、宙は思い切って一人で出かけた。 普段はタクシーで行く距離。でも、節約のために選んだのはバスだった。
バス停からホテルまでは、思ったよりも急な坂道。 大丈夫、これくらい…と思いながらも、慣れない街でキャリーケースを引きずり歩くのは少し不安だった。
そのとき、坂道の向こうから誰かが走ってくるのが見えた。 白い制服に手袋、胸元のネームプレートが夕日にきらりと光る。 ホテルのベルボーイさんだった。
「お荷物、お持ちしますね😊」
その笑顔はとても自然で、やさしくて、宙は胸がじんわり熱くなった。
(私、見られてたんだ……困ってること、気づいてくれてたんだ……)
ベルボーイさんは無理に話しかけるわけでもなく、ただ宙の横を歩いてくれた。 宙の歩調に合わせて、静かに寄り添ってくれたその心遣いに、宙は何度も小さくうなずいていた。
(あっ・・・・これが“看る”ってことなのかも……)
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旅のあと、サロンに戻った宙は、すぐに光さんにその話を伝えた。
「お客様の“心の荷物”も、あんなふうにそっと持ってあげられるようになりたいです」
タオルをたたみながら、光さんはやさしく微笑んだ。
「宙ちゃん、それが“セラピスト”なのよ。 技術や知識ももちろん大事。でも、まず大切なのはその人を“看る”まなざし。 その人が何を必要としているのかを気づくことから、全部が始まるのよ」
宙は静かにうなずいた。
(私もあのベルボーイさんみたいに、誰かをそっと看られる人になりたい……)
その夜、宙はベッドに座り、窓の外を見つめながらそっとつぶやいた。
「まなざしひとつで、人の心はこんなにもあたたかくなるんだ……」
月白と薄藤色に染まった空が、宙の想いを静かに包んでくれた。
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「看る」ということ。 それはただ見ることでも、観察することでもなく、心を寄り添わせるまなざし。 宙の小さな旅は、彼女にまた一つ、大切な気づきを与えてくれたのだった。
つづく。
月二回の更新日、次回はまた二週間後になります!7/20までお楽しみに。不定期にお知らせはあるかもしれませんので時々空色の庭まで遊びに来てね!