島の風に吹かれながら「気づく力」と「手のひら」の感性を育てていく、
新人セラピスト・宙の小さな成長物語。『そらいろスパ日和 〜宙のてのひら物語〜』がWEB上でスタート。忙しい毎日で少しだけ疲れた時に、そっと覗きにきてください。心も体も優しくほどけるような、そらいろの便りをお届けします。
今回は宙がエアリーリーフに来たきっかけが紡がれます。宙の声を聴いてください。
そらいろスパ日和 STORY15話
「浅葱色〜風にほどけて」
施術が終わり、お客様がふと声をもらした。
「なんか、あなたの手って…すごくやさしいんですね。
安心するっていうか、すーって、ほどける感じ」
宙は少しだけ微笑んだ。
「ありがとうございます
……でも、じつは昔、自分の“手”にちょっと自信が持てなくなったことがあったんです」
「えっ、そうなんですか?」
カップをそっと置きながら、宙は窓の外を見つめた。
その先には、珊瑚色に染まりはじめた空が広がっていた。
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宙が東京で最初に働いたのは、
大手ホテルスパの中でもとても人気のある店舗だった。
丁寧に磨かれた技術、洗練された接客、統一されたブランドの世界観。
確かに、そこにいた自分は“プロ”だった。
でも——
「呼吸をする暇もない毎日」が、次第に体と心をすり減らしていった。
一日に何人ものお客様を担当し、
タオルを畳む時間も惜しんで次の準備をする。
休みの日は、ただ眠って回復するだけで終わる。
“楽しむための休日”なんて、いつからなくなったんだろう。
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そんなある日、
窓のないスタッフルームでふと感じた。
「わたし、このまま…何に向かってるんだろう」
気がつけば、宙はいつの間にか
自分が誰のために手を動かしてるのか、わからなくなっていた。
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当初は、いろんなアイデアもあった。
新しいリラクゼーションメニューや、香りの組み合わせ。
「こうしたら、もっとお客様に寄り添えるかも」って。
でも、返ってくるのは、
「うちのブランドイメージに合わないね」
「オリジナル感は要らないから」
宙の声は、
静かに、誰にも聞こえないところに落ちていった。
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そんなある夜。
休みの日にスマホを眺めながら、ふと流れてきた投稿。
沖縄の風景とともに、こう書かれていた。
「“心にふれるサロン”を、一緒につくりませんか?」
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胸がドクンと鳴った。
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「わたしの考えていたこと、ここでは受け入れてもらえるのかもしれない」
「…やってみたい」
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その後のことは、あっという間だった。
夜の道で、なぜか泣けてきて。
おばあちゃんの写真に、
「ごめんね。でも、行ってくるね」
そうつぶやいたのを、今でもはっきり覚えている。
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宙はお客様に向き直ると、
そっと微笑んでこう言った。
「手って、思っている以上に“心”が伝わるんです。
だからこそ、自分の心が元気じゃないと、ふれることがつらくなっちゃう」
「今、こうして“誰かのための手”でいられるのは…
きっとあのとき、風がほどいてくれたからだと思います」
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つづく