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そらいろスパ日和 宙の手のひら物語 Story19 紫~夢に香る島風

島の風に吹かれながら「気づく力」と「手のひら」の感性を育てていく、
新人セラピスト・宙の小さな成長物語。『そらいろスパ日和 〜宙のてのひら物語〜』がWEB上でスタート。忙しい毎日で少しだけ疲れた時に、そっと覗きにきてください。心も体も優しくほどけるような、そらいろの便りをお届けします。

「夢に香る島風」

あのアロマ授業の日から、二週間が過ぎた。

夜のエアリーリーフ。

トリートメントルームの灯りが落ちたあと、宙はひとり、“アトリエ”と呼んでいる部屋にいた。

それは、エアリーリーフの奥にある小さな空間。

窓際に机、棚には精油の瓶がずらりと並び、

香りと向き合うためだけにある、静かな場所だった。

虫の声が、涼しげに響く。

ミスティックブルーの空に浮かぶ、かすかな雲。

宙はラベンダーの精油の瓶を手に取り、ふたを開けた。

ふわり──懐かしい安らぎが胸にひろがる。

「わたし…もう一度、学びたいな」

宙はぽつりと、空に向かってつぶやいた。


机の上には、分厚い一冊の本。

「Aromathérapie Traditionnelle en France」

ふと開いたページに、南仏・グラースの風景が載っていた。

紫のラベンダー畑。

精油の蒸留器が並ぶ工房。

そして、その下に綴られた一文。

「香りとは、“自然から人への手紙”であり、

人の手で、魂に届く形へと仕立てられるもの。」

宙はその言葉に、胸をぎゅっと掴まれる感覚を覚えた。

「ただの癒しじゃない。香りって…生き方に寄り添ってくれるものなんだ」


ある休日。

宙は、光さんと島のカフェで待ち合わせをしていた。

二人の前に運ばれたのは、島のハーブを使ったハーブティー。

蒸気とともに、優しい香りが立ちのぼる。

「この前のアロマ授業、すごく評判だったよ」

と光が笑う。

「うん。でもね…」

宙はカップを両手で包みながら言った。

「もっと、香りのことを深く知りたいの。

この島に、それを“届ける力”がほしいの」

光は、しばし黙って宙の目を見つめたあと──

ゆっくりうなずいた。

「それって、“旅立ちの香り”だね・・・」

「え…?」

「宙ってさ、いま、“風”に包まれてるよ。

行っておいで、フランス。自分の原点、見つめ直してきなよ」

その言葉に、宙の目がふわっとゆるんだ。


アトリエに戻った宙は、窓を開けた。

潮のにおい、ハーブのかおり、木の葉のささやき。

香りたちは、今日も何も言わず、ただそこにある。

でも宙には、彼らの“ことば”が、たしかに聞こえる気がした。

「島から飛び出しても、香りの風はつながってる。

わたし、この風に乗ってみたい──」

月明かりの中、紫色の空に

宙の未来が、そっと香った。

💬次回予告

Story20「島に吹くラベンダーの風」

ついにフランスへ──香りの旅が、始まる。

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